東大院卒・27歳の新卒一期生
論理と創造を行き来する子ども時代
幼少期のお気に入りは宇宙の図鑑。毎日同じページをボロボロになるまで読み込み、広大な宇宙に想いを馳せていました。
小学校の頃の愛読書はことわざ辞典。これも何度読み返したかわかりません。
宇宙とことわざ──まったく違うように見えて、僕にとっては不思議と同じ魅力がありました。
当時は単純に面白いから同じページを何度も読み返していただけです。でも今振り返ると、“遠い世界”を理解する感覚に惹かれてたんだと思います。
宇宙における、物理的に遠い世界の法則や現象。ことわざに刻まれた、時代を超えて受け継がれてきた遠い世界の知恵。
どちらもすぐ手で触れられないものなのに、読み込むほどに「遠い話」がだんだん自分の現実と繋がり、いまの世界でも通用する見方やルールとして立ち上がってくる。その感じが、たまらなく好きでした。
物事を構造で捉えながら、同時に個別の文脈や意味にも自然と目が向く「論理×創造」を行き来する感覚は、きっとこの頃から始まっていたのだと思います。
中高・大学・サークル──進むたびに見えてきた自分の強み
中学は、渋谷にある私立の中高一貫校に進学しました。未経験でしたがバスケ部に入部。バスケの技術だけでは勝負できない分、「チームが機能する動き」をつくることで貢献しようと思いました。
守備では、相手のポジショニングや目線から次を予測しパスコースを先回りして抑えたり、攻撃では、相手を外に引きつけて真ん中にスペースをつくりシュートの導線を整えたり。1on1で派手に勝つというより、チーム全体が動きやすくなる“構造をつくる役割”を評価されスタメン常連になりました。
一方、文化祭では自主制作のムービーやゲームで何度か全校1位を受賞し、ゼロから形を生み出す「創造の楽しさ」に没頭します。
論理性を発揮したバスケとクリエイティブな創造力を発揮した文化祭。論理と創造、両方を行き来できる自分のハイブリット性が、この頃から少しずつ輪郭を持ちはじめていました。
大学進学を考えたとき、“人の心では何が起きているのか” を知りたいという心理学への好奇心と、“体の中では何が起きているのか” を解き明かしたいという化学への好奇心、どちらもあったので、文系・理系の両方を学んでから進路選択ができる東京大学を志望しました。
しかし結果は届かず、横浜国立大学の化学・生命系学科に進学します。
サークル活動では、以前より興味のあった音楽に挑戦したくて、未経験ながら吹奏楽サークルへ入団しました。ここでも演奏面では音楽経験者に敵わない。だからこそ僕は、技術面以外でもチームに貢献しようと思いました。
イベントの企画に積極的に関わったり、日々の活動の中で困っている人がいれば声をかけたり、サークル全体を俯瞰しながら、「いま何が詰まっているか」「どうしたらみんなが動きやすいか」を考える。そんな関わり方を続けるうちに、大学2年の冬から団長を任されることになりました。
団長になってからは、「“人”に会いたくて来るサークル」を目指して、いくつもの仕掛けをつくりました。
たとえば、楽器パートごとに固まりがちな移動をやめて、パートがランダムに混ざる「シャッフル移動」にしたり、連絡手段をパートごとから全員一括の形に変更したり。とにかくパートの壁をとっぱらうことを意識しました。横浜の街全体を使って謎解きと仮装を組み合わせたイベントを企画実行したこともあります。
書き出してみると小さな工夫かもしれません。でも「人が動く仕掛け」を仕組みとしてつくると、驚くほど空気が変わるんです。その瞬間に立ち会えることは面白く、嬉しいことでした。
振り返ると、未経験でも色々な環境に飛び込み続けたからこそ、目の前の出来事を“部分”ではなく“全体”で捉えられるようになり、仕組みをつくって人を動かすことが自分の強みとして育っていったのだと思います。
研究からビジネスへ──キャリア転換した理由
一度は化学の道に進みましたが、改めて直接的に「人の心の仕組み」を探求したいと思ったので、専攻分野を変えて東京大学大学院に進学し、脳科学の研究室に所属しました。
チーム名は「時空間認知神経生理学研究チーム」。研究テーマは「海馬における時間の認知システムについて」です。
ラットの脳に電極を挿し、神経活動のデータをひたすら記録する日々。生物が“世界をどう切り取り、解釈しているのか”という認知の仕組みが少しずつ輪郭を持って見えてくるのは、まさに研究の醍醐味でした。
しかし、研究を進める中で、この思いが強くなっていきました。
──この理解を、研究室の中だけで終わらせたくない。
研究の出発点でもあった、「人はなぜ迷い、どう選び、どう行動を変えるのか」というテーマに“現実の意思決定の場”で関わりたいと思うようになりました。
僕の関心は、研究者として“謎を解き明かす側”から、その経験も生かして、社会の中で“形にしていく側”へと移っていったのです。
境界をまたいで、生きていく
そんなときに出会ったのが、circusです。HRのプラットフォーマーとして業界の動きそのものをデザインしていくアプローチをとる会社であり、僕がずっと惹かれてきた「構造を理解し、仕組みで世界を変える」という感覚と、真っすぐ重なりました。
そして何より、こうした構造づくりが人の行動や意思決定そのものを変えていく点にも魅力を感じました。
これは、研究で問い続けてきた「人はどう認知し、どう動くのか」というテーマの延長でもあり、同時に自分自身の人生の選び方にも重なっていたからです。
さらに、新卒一期生という環境は、僕にとってプラチナチケットでした。
営業、コンサル、カスタマーサクセス、社長室、開発等、多様な部署を研修で経験し、会社の全体構造を知った上で、自分の適性に合う場所を選択できる。部分ではなく全体を見て判断したい僕にとって、これ以上ない環境だと思い、入社を決めました。
現在はプロダクト戦略部に配属され、プロダクト作りの基礎を身につけるエンジニア研修を受けています。将来どんなキャリアを築くにしても、この土台が生きてくると思います。
ただ、これから歩む道はプロダクト開発に限らないとも思っています。営業やカスタマーサクセスなど、顧客と直接向き合う仕事へ広げていく選択肢もある。作り手としての視点と、顧客と関わる視点の両方を持ちながら、まずはどこか一つの領域で自分の強みをつくり、その経験を重ねながら広げていくことで、僕だけのハイブリットなキャリアをつくっていきたいと思っています。
そしてもう一つ、大切にしたい価値観があります。
それは、「遠回りを怖がらないこと」。
コスパやタイパが重視され、最短距離で成果に直結することが正解になりがちな今、僕はいわゆる“無駄”にこそ未来の宝が眠っていると思っています。
どんな経験も、目の前のことに本気で没頭すれば、巡り巡って自分の血肉になる。
寄り道の途中で拾った石ころを丁寧に磨いて宝石に変えながら、人生の宝物を少しずつ増やしていきたいと思います。
※所属・役職はすべて取材当時(2025年11月時点)のものです。