circusAGENT誕生ストーリー|窮地から生まれたcircusのプロダクト価値観
2009年以降、有効求人倍率は右肩上がりとなり、採用市場では売り手市場が続いています。優秀な人材には、数百件のスカウトが届き、複数のオファーが並ぶ、そんな時代です。
ところが、実際の人材紹介の現場で起きているのは「求職者に合った求人を提案できていない」という課題。
人を採用したい企業は溢れかえっているはずなのに。
なぜでしょうか?
その理由は、既存の「人材紹介業界の構造に限界が来ている」ということだと考えています。
エージェント時代に直面した葛藤
日本には約3万社の人材紹介会社があり、その多くは中小規模です。企業担当(RA)と求職者担当(CA)を一人で担う「両面型」の体制が一般的で、実に約8割の人材紹介会社がこの体制を採用しているといわれます。
エージェントは、求職者対応としてスカウト文面の作成・配信、履歴書添削、キャリア面談、面接調整、内定条件交渉を担う一方で、企業対応として求人獲得営業・契約締結・募集要件インタビュー・求人票作成まですべて担います。その結果、求職者に十分に向き合う時間も、幅広い求人を開拓する時間も不足しがちです。
加えて、この10年間で、転職市場自体が大きく変化しています。売り手市場による未経験採用の活発化や、異業種や異職種へのキャリアチェンジの一般化など、就職先の選択肢は急速に多様化しています。リモートワークの普及により、これまで当たり前だった勤務地の固定化も崩れつつあります。
こうした変化のなかで、エージェントは多様化する求職者ニーズに応えなければなりません。しかし、自社が保有する求人だけでは到底カバーしきれない状況に直面しています。結果として「手元にある求人からミスマッチな紹介せざるを得ない」という課題が生まれているのです。
その結果、ミスマッチな人材紹介が行われてしまいます。
私自身、このような問題を身をもって体感していました。
circus創業前のエージェント時代、目まぐるしい日々の業務のなかで、まるで機械のように求人と人を右から左へ流す日々を送っていました。
そんなある日、親しい友人から「自分にも就職支援をしてほしい」と頼まれたのです。しかし、私は反射的にその相談を断ってしまいました。
その瞬間、気づきました。
「これしかない」と選択肢を狭め、「ここで決めよう」と無理に背中を押す──。
そんなやり方で、大切な人の一生を左右するキャリアを決めるなんて、とてもできない。
けれど現実には、友人であろうとなかろうと、多くの人が十分な情報を得られないまま就職先を決めている。人生でもっとも重要な選択のひとつである「就職」が、こんな風に決まってしまっていいのか。
──HR業界の現状を、変えなければならない。
人生を懸けて取り組むべき使命が見つかった瞬間でした。
circusAGENTの誕生、そして直面した“死の谷”
私は、エージェントの価値のひとつは、“求職者自身も気づいていない強みや可能性を見つけ出し、気づきを与えること”だと考えています。しかし、その価値を発揮をするためには「求職者と深く向き合う時間」や「多様な求人から選択肢を提案すること」をはじめとした、さまざまな要素が欠かせません。
こうした複数の要素を同時に満たす仕組みとして構想されたのが、人材紹介プラットフォーム「circusAGENT」です。
採用企業とエージェントの取引をすべてオンラインで完結できるBtoBプラットフォームの事業構想でした。
エージェントは、当社との契約だけで多様な求人の取り扱いができ、求職者に提案できる求人の幅が広がります。採用企業は、エージェントとの商談、契約、連絡、請求の窓口をcircusAGENTに一本化できるようになります。
構想に共感した仲間と共に開発を進め、ようやくリリースにこぎ着けました。しかし、一定数の企業やエージェントに使ってもらえるようになったものの、大きな広がりには“あと一歩”が足りません。
赤字は膨らみ、資金もリソースも尽きかける──いわゆる「キャズム(死の谷)」に直面したのです。
この逆境をどう乗り越えるか。その打開策として思いついたのが、レベニューシェア(協業)の仕組みでした。
逆境から生まれた解決策──シェアリング機能誕生の背景
私たちが考えたのは、エージェント同士が求人をシェアし、得られた成果報酬を分け合うという新たな「人材紹介会社同士の協業」の仕組みでした。
このアイディアが生まれたのは、自身がエージェント業をやっていた時によく見聞きしていたエージェント同士のこんな会話です。
「担当している求職者に合う求人がないんです。御社で良い求人を持っていませんか?」「こういう求人をもっているのですが、うちにはマッチする求職者がいなくて…。御社でこういう経験を持った求職者はいませんか?」
しかし、協業のニーズはあったのに、採用が成立しているケースはほとんど目にしませんでした。
つまり、“求職者はいるけれど求人がないエージェント”と“求人はあるけれど求職者がいないエージェント”が存在しているが、お互いにリソースがかみ合わない状況が頻繁に起きていたのです。
その要因を紐解くと、この2点に行き着きました。
①レベニューシェア配分の不適正さ
当時、協業した末に得られた報酬は「求人をシェアした側」と「求職者対応をした側」で50:50に分け合うのが通例でした。
しかし、求職者対応側は求人開拓に比べ、求職者獲得にかかるコストと求職者対応にかかる工数が大きくなりがちです。それなのに報酬は半分という不適正感が、協業に対する熱量を奪っていたのです。
そこで私たちは、エージェント間で求人をシェアし、レベニューシェアを行う「シェアリング機能」を開発し、成約時の報酬を以下のように分配することにしました。
求職者対応を行ったエージェント:70%
求人をシェアしたエージェント:30%
②情報共有の鮮度と精度の低さ
人材マッチングで重要なのは、情報の鮮度と精度です。
採用の現場では、採用担当者とエージェント、そしてエージェント同士が、チャットツールなどを通じて日々リアルタイムな情報交換をしています。
また、エージェント同士でも交流会などを通じて「いまはこの求人が動いている」「こんな求職者を担当している」といった情報交換が活発に行われています。
しかし、いざ協業しようとすると、数ヶ月前の会話に頼るしかなくなるため情報の鮮度が失われ、求職者はすでに他の選考に進んでいたり、企業の採用ニーズが変わっていたりして、せっかくの協業がうまくいかないケースが少なくありませんでした。
この課題を解決するため、異なる会社のエージェント同士が、まるで同じ会社のCRMツールを使っているかのように、リアルタイムかつ詳細に情報を共有できる仕組みを導入しました。
“死の谷”からの脱出──circusAGENT飛躍のターニングポイント
これらの機能強化により、circusAGENTは大きな転機を迎えました。
シェアリング機能がリリースされてすぐに、エージェントは、自社の保有している取引先の求人募集をcircusAGENT上に掲載し始めました。募集求人数は、3か月で20倍となり、それに比例して、人材紹介の成約数が爆発的に伸び、数年かかると見込んでいた求人数と成約数を、わずか数ヶ月で達成することができたのです。
本来であれば、プラットフォーム運営者である弊社circusが、採用企業に対して1社ずつ営業活動を行い、利用企業を増やしていく必要があります。しかし、エージェントが保有する取引先の求人募集を掲載してもらう仕組みにすることで、私たちの営業の工数を大幅に削減しながら、多くの求人を効率的に集めることができました。
この機能の開発こそが、私たちにとって“死の谷”を越える最初のターニングポイントでした。単なる一機能の追加にとどまらず、事業を成長軌道に乗せる大きなきっかけとなったのです。
シェアリング機能をきっかけに事業がブレイクしたことで、私たちは確信を得たことがあります。それは、事業をスケールさせる重要な機能は、顧客や現場の声から生まれるということです。
私たちは、この考え方をサービス設計のベースとして大切にしています。
また、この機能リリースで生まれた「シェア」という概念は、この後circusが生み出すプロダクトの設計思想へと繋がっていくことになります。